んんんー
おいしいBUTTERが食べたくなった。
おいしい食事がしたくなった。
それは一人というより、誰かといっしょがいい。
この物語に登場する人物、この中に私がいる。
そう感じることができる物語だ。
ある人は主人公かもしれない。
ある人は、その親友かもしれないし、同僚かもしれない。
実際に起きた、とある事件がモチーフなんだろう。
でも最後に見る景色はちょっと事件の話からは反れている。
友情?
とも違う、愛、いや信頼?
みんな一人。苦しいとき助けて!といえず、苦しんでいる。
たった少し、自分を曝け出すことができたなら。
序盤は男たちを手玉にとったかのような殺人の容疑者と主人公女性記者のやりとり、
どんどん容疑者のペースにぐるぐる巻きにされていく。
そして中盤、記者の親友が己の意思でその渦の中に飛び込んでいく。
そこから、容疑者主導だった物語が記者のペースにうまく巻き返す。
かに思えたのだが、最後にはそうなったか-と予想だにしなかった展開に。
苦しい展開に記者はなすすべなく力が吸い取られてしまったかのよう。
一見容疑者の方が一枚上手に思えたのだが、
その苦しさに沈んでしまうことなく、生きるために抜け出す記者。
読み終えた今、ほっとするとともに、
自分のための料理をしたくなり、おいしいご飯、BUTTERを食したくなり。
おなかがすいた自分がいます。
柚木麻子さん
描写がうまくて、容易に物語の景色を想像できる。
本当にBUTTERの香りがしてきそうだし、
ほこりまみれの部屋の匂いまでしてきそうで。
法廷の中で容疑者を
“ババロアのように見えた。突き刺さる視線を跳ね返すどころか・・・”という下りでは「強靱な軟弱」と表現している。
一見真逆と思うこの二つの単語。
でも、作者が使うと、なるほどと感心させられる。
まだ読んでいないあなたへ
ぜひ、BUTTERの香りがするこの物語をおすすめします。
表紙はBUTTERを思わせる黄色。